自閉スペクトラム症とは

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder、ASD)とは、対人関係が苦手でコミュニケーションが上手く取れない、こだわりが強いなどの特徴がある発達障害を指します。

また、自閉スペクトラム症は子供の20人~50人に1人とされ、女の子よりも男の子のほうが自閉スペクトラム症と診断されることが多いという特徴があります。

自閉スペクトラム症の具体的な原因ははっきりとは分かっていませんが、両親の性格や育て方などが原因ではなく、遺伝的な要因が絡み合って起きる生まれつきの脳機能障害と考えられています。

自閉スペクトラム症の特徴

自閉スペクトラム症の特徴

自閉スペクトラム症(ASD)の特徴は個々の人により異なりますが特定の行動を何度も繰り返したり、ある特定のものに対して強烈な興味を持ったりする傾向があります。ASDの特徴は、人がどのように学び、情報を処理し、世界を理解するのに影響を及ぼします。
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社会的コミュニケーションと相互作用の問題

ASDのある人は、視線のやり取り、表情、身振りなどの非言語的な相互作用に困難を感じることがよくあります。また、自閉スペクトラム症は、他人の気持ちや視点を理解するのが難しいかもしれません。会話の持続、適切な質問の提起、友人との関係の維持など、言葉の相互作用にも問題があるかもしれません。

反復的な行動とルーティンへの固執

ASDのある人は、特定の行動や活動を何度も何度も繰り返すことがよくあります。これには、物事を一定の順序で行う、特定の項目、又はトピックに強い執着を持つ、特定の音や動きを繰り返すなどが含まれます。また、自閉スペクトラム症のルーチンが変更された場合、困難を経験することがあります。

限定的な興味と強烈な専門性

自閉スペクトラム症の人は、限定的で強烈な興味を持つことがあります。これらの興味は、数学や電車などの特定のテーマ、特定のアイテム、特定のアクティビティに集中していることがよくあります。

感覚過敏・感覚鈍化

自閉スペクトラム症の人は、光、音、触覚などの感覚刺激に対して過敏だったり、あるいは鈍感だったりします。たとえば、特定の音や質感に強く反応するか、あるいはほとんど反応しないかもしれません。

自閉スペクトラム症のセルフチェック方法

自閉スペクトラム症のセルフチェック方法

自閉スペクトラム症(ASD)の自己評価は、ASDの可能性を示す行動や特性を理解するための一つのツールです。しかし、これらのチェックリストや評価ツールは診断を下すためのものではありません。ASDの可能性を評価する場合は、必ず医療専門家に相談してください。

自閉スペクトラム症のチェックリスト

1.他人と目を合わせるのが難しいですか?
2.他人の表情や非言語的な手がかりを理解するのが難しいですか?
3.他人と関係を築き、維持するのが難しいですか?
4.あなたは言葉を適切に使用していますか?
5.人があなたに何を言っているか、又は何を意味しているかを理解するのが難しいですか?
6.あなたは特定の行動を繰り返す傾向がありますか?
7.あなたはルーチンを変えることが困難ですか?
8.あなたは特定のトピックやアクティビティに強く興味を持っていますか?それらについて詳しく語ることができますか?
9.特定の音、触覚、視覚刺激に過敏、又は鈍感ですか?
10.言葉や社会的スキルの発達が遅れていましたか?

上記はASDの一般的な特性を示す質問の一部です。これらの質問に「はい」と答えた人は自閉スペクトラム症の可能性がありますので、専門家の診断が必要です。

自閉スペクトラム症の割合は?

自閉スペクトラム症の割合

自閉スペクトラム症(ASD)の発生率は、地域や調査手法により異なるため、正確な割合を示すのは難しいですが、厚生労働省の発表では100人に1人(人口の1%)となっています。

日本におけるASDの割合は約3%

2020年の弘前大学の発表では、日本の5歳児における自閉スペクトラム症の割合は3.22%であるとのことです。

ASDは少なくとも1つの発達障害の併存が88.5%あり、注意欠如多動症が50.6%、発達性協調運動症が63.2%、知的発達症が36.8%、境界知能が20.7%の割合で併存しています。

自閉スペクトラム症の平均寿命

アメリカの研究では、自閉スペクトラム症の人の平均寿命は36歳と発表されています。

自閉スペクトラム症の種類

自閉スペクトラム症の種類

自閉スペクトラム症(ASD)は、広範で多様な症状や特性を持つスペクトラム疾患です。つまり、自閉スペクトラム症のすべての人が全く同じ症状や行動を示すわけではありません。しかし、ASDの主な種類として認識されているのは、自閉症、アスペルガー症候群、全般的発達障害の3つです。

3つの分類は、以前の診断体系(DSM-IV-TR)に基づいており、現在の精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)では、これらの区別はなくなり、すべてが自閉スペクトラム症(ASD)の下に統合されています。DSM-5はASDを3つのレベルに分けて重症度を評価し、その人が必要とするサポートのレベルを示します。

自閉症

最も一般的な形態で、通常は早い幼児期に症状が現れます。社会的交流、言語とコミュニケーション、そして一定の行動や興味に影響があります。

アスペルガー症候群

言語の発達は正常であるものの、社会的交流や特定の反復的な行動に困難が見られます。知能が平均以上で、一部の人は特定の領域で特別なスキルや能力を持っています。

全般的発達障害(PDD-NOS)

自閉症とアスペルガー症候群の明確な診断基準を満たさないが、一部の類似した症状を示す場合に用いられる診断です。

自閉スペクトラム症の顔つきの特徴

自閉スペクトラム症の顔つきの特徴

自閉スペクトラム症(ASD)は、主に社会的コミュニケーション、相互作用の困難、反復的な行動・限定的な興味などの行動や認知の特徴によって特定されます。そのため、ASDが具体的な顔つきや身体的特徴をもたらすわけではありません。

ただし、人が自閉スペクトラム症の個人の顔つきを特定の方法で認識することがあるのは、それがASDの表情や非言語的なコミュニケーションに影響を与える可能性があるからです。

人の表情を理解するのが難しい

たとえば、ASDのある人は、社会的相互作用に一般的に使用される顔の表情を理解したり、使用したりするのが難しいかもしれません。その結果、彼らの表情は他人にとって無表情に見えるか、あるいは感情や意図を反映していないように見えるかもしれません。また、視線の接触を避ける傾向があるため、これが他人からのASDの顔つきの解釈に影響を及ぼす可能性もあります。

しかし、これらの特性はすべてのASDの人に当てはまるわけではなく、それらはASDの診断を下すための基準ではありません。ASDの診断は主に行動、コミュニケーション、及び社会的相互作用の観察と評価に基づいています。あくまで神経発達の問題であり、顔つきや身体的特徴には直接的な関連性はありません。

自閉スペクトラム症の診断基準

自閉スペクトラム症の診断基準

自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準は、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)により定義されています。DSM-5は、アメリカ精神医学会が公表する精神障害の分類、及び診断基準で、世界中の医療専門家によって広く使用されています。DSM-5によると、自閉スペクトラム症の診断基準は以下の通りです。

DSM-5におけるASDの判断基準

・社会的感情と社会的コミュニケーションの相互的なやり取りの問題
・非言語的なコミュニケーション行動の問題
・人間関係の構築、維持、理解する能力の問題
・動作の反復、ルーチンや儀式的なパターンへの固執
・固定的で限定的な興味、感覚の過敏、又は不敏

自閉スペクトラム症の3つの支援レベルとは?

自閉スペクトラム症の3つの支援レベル

DSM-5(診断と統計マニュアル第5版)では、自閉スペクトラム症(ASD)は症状の重症度に応じて3つのレベルに分けられています。これらのレベルは、個々の人が日常生活で必要とする支援の程度を示します。

また、この3つのレベルは、あくまで個々のASDの人が対人関係、コミュニケーション、そして制限的で反復的な行動の面でどれだけの支援が必要であるかを示しています。これらのレベルは固定的なものではなく、時間や環境の変化、適切なサポートや治療により変化する可能性があります。

ASDレベル1・要支援

レベル1の人は、明確な問題を持つが、一定の支援を得ることで、独立して生活する能力を持つことができます。ASDレベル1は社会的な状況が難しく、友人を作るのが難しいかもしれません。また、非言語的なコミュニケーションを理解するのが難しいかもしれません。

ASDレベル2・要中程度の支援

ASDレベル2の人は、日常生活におけるスキルで明らかな難しさを経験し、より多くの支援が必要です。ASDレベル2は繰り返し行動を示し、ルーチンに大きな固執を示すかもしれません。また、社会的な状況や非言語的なコミュニケーションに対する理解に苦労することがあります。

ASDレベル3・要大幅な支援

ASDレベル3の人は、重度の難しさを経験し、日常生活の活動において広範な支援が必要です。ASDレベル3は非常に限定的な興味範囲を持つかもしれず、非常に繰り返し行動を示すかもしれません。また、ASDレベル3は重度の社会的、コミュニケーションの問題を持ち、非言語的な手がかりを理解するのが難しいです。

自閉スペクトラム症の話し方の特徴

自閉スペクトラム症の話し方の特徴

自閉スペクトラム症(ASD)の人が示す話し方やコミュニケーションの特性には、言葉の遅れやエコラリアなどがあります。

言葉の遅れ

ASDのある子どもたちは、他の子どもよりも言葉を話し始めるのが遅い場合があります。

エコラリア

自己や他人が以前に言った言葉やフレーズを繰り返します。

言葉通りの解釈

慣用句、隠喩、ジョーク、比喩的な表現を文字通りに理解する傾向があります。

単調な声調・異常な強調

自分の声のピッチや調子を調節するのが難しいかもしれません。

非対話的な会話

他人の関心や反応を十分に考慮せず、自分の興味について長々と話す傾向があります。

一方通行のコミュニケーション

他人との会話で自然にやり取りするのが難しいかもしれません。対話ではなく一方通行のコミュニケーションになることもあります。

表情や声から読み取れない

他人の声の調子や表情から意味を読み取るのが難しい場合があります。

自閉スペクトラム症の症状

自閉スペクトラム症の症状

自閉スペクトラム症(ASD)の症状は人により大きく異なり、非常に軽微なものから重度のものまで幅広くあります。また、ASDの症状は、主に二つの大きなカテゴリーに分けられます。

通常、これらの症状は、2歳までに現れます。しかし、症状の重度は時間と共に変わることがあり、適切な支援や介入により改善されることもあります。

自閉スペクトラム症の診断は、これらの症状が日常生活に影響を及ぼし、早期の発達段階から存在していたことを確認することで行われます。症状は他の神経発達障害、精神障害、身体的病気、環境的要因によるものでないことが確認される必要があります。

社会コミュニケーションと対人関係の問題

・言葉の発達の遅れや無言
・非言語的コミュニケーションの困難(目を合わせるのが難しい、表情や身体言語を理解するのが難しいなど)
・他人との社会的相互作用に困難(友人を作るのが難しい、他人の感情を理解するのが難しいなど)

制限的で反復的な行動のパターン

・特定のルーチンや儀式への強い固執(変化を好まない)
・特定の主題や物に強い興味や集中
・特定の行動の反復(手を振る、物を揺らすなど)
・異常な感覚への関心や反応(特定の音、触感、味に対する過敏さや不敏さ)

自閉スペクトラム症の原因

自閉スペクトラム症の原因

自閉スペクトラム症(ASD)の原因については、まだ完全には解明されていませんが、一般的には遺伝的要素と環境要素の複合的な影響が関与していると考えられています。

遺伝的要素による原因

自閉スペクトラム症の発症には、遺伝が大きく関与していることが研究で明らかになっています。一部の遺伝子変異は自閉スペクトラム症の発症リスクを高めることが知られています。また、一卵性双生児の研究からも遺伝の影響が示されています。

しかし、特定の遺伝子が直接的な原因となるわけではなく、複数の遺伝子が組み合わさることで自閉スペクトラム症の発症リスクが上がると考えられています。

環境要素による原因

遺伝的要素だけではなく、環境要素も自閉スペクトラム症の発症に影響を与えるとされています。妊娠中の母親が感染症に罹患したり、特定の薬物を使用したりした場合、子供が自閉スペクトラム症になるリスクが高まる可能性があります。

また、母親の高齢出産も自閉スペクトラム症のリスクを高めるという研究結果もあります。

脳の構造や機能による原因

自閉スペクトラム症の人の脳は、非自閉スペクトラム症の人とは異なる構造や機能を持つことが報告されています。これらの違いは、神経細胞の接続や通信、そして脳の各部分の発達に関連していると考えられています。

しかし、これらの違いがどのように自閉スペクトラム症の特性と関連しているのかは、まだ完全に理解されていません。

大人の自閉スペクトラム症とは?

大人の自閉スペクトラム症

自閉スペクトラム症(ASD)は、一生涯に渡る状態であり、その症状は乳幼児期から見られることが多いですが、大人になってもその特徴や影響は続きます。特に軽度の場合や女性の場合には、成人期まで診断が遅れることもあります。

大人の自閉スペクトラム症の人は、個別の需要と能力に応じた適切な支援や治療を受けることで、日常生活をより効果的に適応し、その能力を最大限に引き出すことができます。

大人の自閉スペクトラム症の症状

他人と目を合わせるのが難しい、身体言語や非言語的な手がかりを理解するのが難しい、相手が話し終わるのを待つことに苦労するなどがあります。また、特定のルーチンや習慣に固執する、特定の主題や物事に強い興味を持つ、同じ行動を繰り返すなどもあります。

その他、特定の音や光、触感、味や香りなどに対して強い不快感を覚えたり、逆にあまり感じなかったりします。

大人の自閉スペクトラム症の人との付き合い方

大人の自閉スペクトラム症の人との付き合い方

自閉スペクトラム症(ASD)の人との付き合い方は、まずは理解を深めてコミュニケーションを取ることです。また、ASDの人の興味やルーチンを尊重し、快適に感じられる環境を整えることも重要です。

理解を深める

自閉スペクトラム症について学び、その特性を理解することは非常に重要です。ASDの行動が社会的な規範から逸脱するかもしれない理由や、特定の状況で苦労する理由を理解することは、ASDの人に対する理解と寛容さを深めます。

直接的な表現・具体的な伝え方

間接的な表現や比喩、暗黙の了解は理解しづらいことがあります。ASDの人に何かを伝える時は、具体的で直接的な表現を使用し、必要なら確認を求めてみてください。

感覚過敏に配慮する

ASDの人は特定の音、光、触感に敏感であることがあり、それが不快感やストレスを引き起こすことがあります。可能な限り、ASDの人が快適に感じられる環境を提供しましょう。

興味や関心を尊重する

ASDの人は、しばしば特定の主題や活動に強い興味を持つことがあります。これらの興味を尊重し、共有することでコミュニケーションの機会を作ることができます。

ルーチンと構造を尊重する

ASDの人はルーチンや構造を好む傾向があります。可能な限り、ASDの人のルーチンを尊重し、予定変更を事前に知らせるなどして、安定した環境を提供しましょう。

忍耐力を持つ

ASDの人は社会的な状況や対人関係に苦労することがあります。ASDの人が状況を理解し、反応するのに時間がかかることを理解し、忍耐力を持つことが大切です。

支援を提供する

ASDの人が必要とする支援を提供することが重要です。具体的な指示や助け、特定の状況に対する適切な対応の助けなどです。

自閉スペクトラム症を治すには?ASDの改善や治療方法

自閉スペクトラム症を治すには

自閉スペクトラム症(ASD)は、遺伝的、生物学的要素による一部の神経発達の違いを反映したもので、現在のところ、ASDを治す方法はありません。また、ASDは根本的な治療法が存在しない神経発達障害です。

しかし、ASDの人は、生活の質を向上させる方法がないということではありません。適切なサポートと介入は、個々の症状を大幅に改善し、生活の質を向上させることができます。

行動療法

行動療法は特に小さな子どもにとって効果的であり、社会的スキル、コミュニケーション能力、学習スキルを強化します。応用行動分析(ABA)は、行動療法の一つであり、特に自閉スペクトラム症の治療でよく使用されます。

言語療法

言語聴覚士は、言葉と非言語的なコミュニケーションスキルを強化するのを助けます。

作業療法

作業療法士は、食事や着替え、トイレの訓練などの日常生活のスキルを強化するのを助けます。また、感覚過敏性の問題を管理するための戦略も提供します。

心理療法

不安や抑うつなど、自閉スペクトラム症にしばしば伴う心の問題を対処するのに役立ちます。

薬物療法

不安、注意力の問題、衝動性などの特定の症状に対しては、薬物療法として医薬品が有効な場合もあります。

特別支援教育

学校の環境で、子供たちの学習と社会的成功を支援します。