個人再生は、日本の民事再生手続と同様に、個人が負担している過剰な債務を整理し、経済的な再生を図るための法的手続きです。具体的には、個人再生手続きを利用することで、債務者は裁判所の認可を受けた再生計画に基づいて、債務を減額・分割・猶予などの方法で支払いを行うことができます。
個人再生手続きには、債務者の信用に悪影響が及ぶことや、手続きに時間と費用がかかることなどのデメリットもありますが、適切な手続きを経て、経済的な立ち直りができることが期待できます。
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個人再生手続きの手順や流れ
個人再生手続きの具体的な手続きや期間は、債務者の状況や裁判所の対応により異なる場合があります。
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専門家への相談
弁護士や司法書士などの専門家と相談し、自身の状況を詳しく説明します。専門家は個人再生が適切な手続きであるかどうかを判断し、手続きの進め方を説明します。
再生計画案の作成
専門家の助けを借りて、再生計画案を作成します。再生計画案には債務の返済方法や返済期間などが具体的に記載されます。
個人再生の申し立て
裁判所に対して個人再生の申し立てを行い、再生計画案を提出します。
仮処分の申し立て
必要に応じて、仮処分の申立てを行うことがあります。これは、申し立て後の手続き期間中に債権者から資産を差し押さえられるのを防ぐためのものです。
個人再生手続きの開始決定
裁判所が手続きの開始を決定します。これにより、債権者に対する返済が一時停止します。
個人再生委員の調査
裁判所が任命した個人再生委員が、債務者の財産状況や収入、生活費などを調査します。
再生計画案の認可
個人再生委員の調査結果を踏まえて、裁判所が再生計画案を認可します。
返済の開始
認可された再生計画案に基づいて、債務の返済を開始します。
返済の完了と再生手続きの終了
再生計画案に従った返済が完了した時点で、個人再生手続きは終了となります。
個人再生のメリットとは?
個人再生手続きの最大のメリットは、自宅や車などの資産はそのままで、債務を大幅に減額できることです。個人再生は成功率が高く、債務の減額率が70%~80%にもなり、最大では90%も可能です。そのため、仮に1000万円の借金があったとしても、弁済額は200万円前後まで大幅にカットできます。
債務の減額・分割・猶予
個人再生手続きでは、裁判所が認可した再生計画に基づいて、債務の減額や分割払い、猶予(一時的に支払いを猶予すること)などが認められます。これにより、債務者は経済的な負担を軽減し、立ち直りが容易になります。
差し押さえや取り立ての防止
個人再生手続きが開始されると、債権者は一時的に差し押さえや取り立てを行うことができなくなります。債務者は精神的な負担を軽減し、生活の安定が図られます。
自宅や車などの資産を維持できる
個人再生手続きでは、一定の条件下で自宅や車などの資産を維持することができます。個人再生を行うことで生活基盤が維持され、再建を目指すことができます。
破産手続きより信用回復が早い
個人再生手続きは、破産手続きに比べて信用回復が早いとされています。破産手続きでは破産宣告から5年間は新たな借入が難しいとされていますが、個人再生手続きではその期間が短くなることがあります。
個人再生のデメリットとは?
個人再生手続きのデメリットは、弁護士や司法書士などの専門家に支払う費用や裁判費用がかかることと、手続きに時間がかかることです。個人再生は、裁判所への申し立てから再生計画認可までに6ヶ月ほどの期間が必要となりますが、場合によっては1年以上かかるケースもあります。
また、個人再生を行うと信用情報機関に記録が残りますので、一定期間、今後のキャッシングやクレジットカードの利用、住宅ローンや自動車ローンの利用ができなくなります。登録される個人信用情報機関は、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、株式会社日本信用情報機構(JICC)、全国銀行個人信用情報センター(KSC)の3つです。
手続きに時間がかかる
個人再生手続きは裁判所の審査が必要であるため、手続きに時間がかかることがあります。手続きが完了するまでの間、債務者は不安定な状況が続くことになります。
弁護士費用や裁判費用がかかる
個人再生手続きを進めるためには、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することが一般的です。そのため、手続きにかかる費用が負担となります。また、手数料や印紙代などの法定費用も発生します。
信用情報機関に登録される(ブラックリスト入り)
個人再生手続きが終了した後も信用情報機関に手続きの記録が登録され、いわゆる「ブラックリスト」に載ることになります。これにより、一定期間、新たなローンやクレジットカードの取得が難しくなります。個人再生によるブラック状態は、おおよそ5年~10年と言われています。
全ての債務が対象とならない
個人再生手続きでは、税金や罰金、損害賠償請求など、全ての債務が対象とならない場合があります。そのため、手続きを経ても、一部の債務が残ることがあります。
再生計画の履行が難しい場合
個人再生手続きでは、裁判所が認可した再生計画に従って債務の支払いを行わなければなりません。しかし、計画の途中で収入が減ったり、支出が増えたりすると、再生計画の履行が難しくなることがあります。
個人再生の費用の内訳や平均相場は?
個人再生手続きにかかる費用は、弁護士などの専門家への報酬や手数料の他に、裁判所費用として予納金(官報掲載料)、収入印紙代(申立手数料)、郵便切手で2万円~3万円となります。
費用はケースごとに異なるため一概に相場を示すことは難しいですが、総額としては、おおよそ50万円~60万円と考えておくのが妥当です。
専門家への報酬
弁護士や司法書士に依頼する場合、一般的に着手金として20万円~30万円、成功報酬として20万円~30万円、合計50万円~60万円程度が相場とされています。ただし、ケースの複雑さや地域によっては、これよりも高額になることがあります。
裁判所への手数料や印紙代
個人再生手続きには、裁判所への申立て手数料や印紙代が発生します。これらは一定の金額が設定されており、手数料は2万円程度、印紙代は数千円から1万円程度が一般的です。
書類作成や郵送費などの費用
書類作成や郵送費など、手続きに伴うその他の費用も考慮する必要があります。これらの費用はケースごとに異なるため、具体的な金額は専門家に確認するほうが良いでしょう。
個人再生委員とは?
個人再生手続きにおいては、裁判所が任命する個人再生委員が重要な役割を果たします。個人再生委員は、主に債務者の資産状況の調査や再生計画案の作成支援、再生計画の実行監督などを行います。
個人再生委員は、一般的には弁護士などの法律の専門家が任命されます。その役割は債務者の経済的再生を支え、公正な手続きを保障することです。
資産状況の調査
債務者の財産状況や収入、生活費などを調査し、裁判所に報告します。再生計画案が債務者の返済能力に見合ったものであるかどうかが判断されます。
再生計画案の作成支援
債務者が自ら再生計画案を作成する際に、必要に応じて支援を行います。
再生計画の実行監督
再生計画が認可された後は、債務者が計画に従って返済を行うことを監督します。
債権者との調整
必要に応じて債権者との間で調整を行い、再生手続きが円滑に進行するようにします。
個人再生委員の報酬
個人再生委員に対する報酬は15万~25万円となります。
個人再生と任意整理の違いは?
個人再生と任意整理の大きな違いは、債権者と直接交渉するか、裁判所を通じて手続きを行うかの違いです。任意整理では個別に1社ごとに交渉し、同意を得ていく流れですが、個人再生では裁判所が全ての債務をまとめ、再生計画案に基づいて返済をスタートする流れです。
また、個人再生は債務の大幅な減額が可能ですが、任意整理では債権者から同意が得られない場合、交渉が難航するケースもあります。
代理交渉や手続きの違い
代理交渉や手続きでは、任意整理の場合は債務者と債権者が直接交渉する手続きで、弁護士や司法書士などの専門家が債務者を代理して交渉を進めます。裁判所を通じる手続きではありません。個人再生の場合は、裁判所を通じた手続きで、再生計画案を裁判所に提出し、裁判所の認可を得て債務の整理を行います。
債務の取り扱いの違い
債務の取り扱いでは、任意整理の場合は全ての債務を個別に交渉の対象とし、債権者ごとに返済条件を再設定します。個人再生の場合は全ての債務をまとめて対象とし、再生計画案に基づいて返済を行います。
債権者の同意の違い、信用情報機関への登録期間の違い
債権者の同意や信用情報機関への登録期間では、任意整理の場合は債権者との交渉結果により、債務の一部免除や分割払いが可能となりますが、全ての債権者が同意する必要があります。また、信用情報機関に登録され、新たな借入れが一定期間制限されます。
個人再生の場合は、裁判所が認可した再生計画に基づいて返済を行います。全ての債権者が同意しなくても、裁判所の認可があれば手続きは進行します。一方で、手続きには時間と費用がかかり、信用情報機関への登録期間も一定期間続きます。
個人再生ができる条件とは?
個人再生を行うには、いくつかの条件があります。まず、個人再生は再生計画案に基づいて返済を行っていきますので、毎月安定した収入を得ている必要があります。また、給与所得者の場合、給与などの定期的な収入があることに加えて、金額の変動の幅が小さいと見込まれることも必要です。
次に、住宅ローンを除く借金の総額が5000万円以下であることも条件の1つです。その他、小規模個人再生手続きでは債権者から半数以上の反対がないこと、また過去7年以内に自己破産がないことが条件となります。
2回目は?自己破産や個人再生は何度でもできる?
自己破産や個人再生は利用回数に制限がありません。そのため、過去に個人再生を行った人でも、2回目、3回目の個人再生が可能です。
ただし、原則として前回から7年間は個人再生ができませんので、一定期間は個人再生ができないことになります。また、2回目以降の個人再生では1回目よりも厳しくなりますので、債権者から再生計画案を反対される場合もあります。