旅行者下痢症とは、発展途上国などの海外を訪れた旅行者が、旅行中や帰国後に腹痛や下痢、吐き気や嘔吐などの症状が出ることを言います。
旅行者下痢症は、細菌や寄生虫、ウイルスによって引き起こされます。そのため、旅行者下痢症を予防するためにも、現地では加熱調理されたものを食べることと、水道水は飲まないようにして、未開封のキャップが付いている飲み物を利用し、屋台などでの飲食を避けることが重要です。
また、石鹸を使って手洗いを徹底して行うことで、旅行者下痢症を回避することが可能です。
旅行者下痢症のガイドライン
旅行者下痢症の予防と対策についてのガイドラインは、次のようなものがあります。
一般的に、これらのガイドラインは大部分の旅行者下痢症を管理するために役立ちますが、旅行前に医療専門家と相談することが最善の対策です。特に、免疫系に問題がある場合や既存の健康状態がある場合は、旅行前に専門家のアドバイスを求めることが重要です。
飲食物の衛生
特に新鮮な飲み水の確保、食品の安全な調理(加熱調理されたもの、パッケージされた食品など)、生の食材や街角の屋台など、汚染の可能性があるものを避けることが重要です。
手洗いの徹底
特に食事前やトイレ使用後には、石鹸と清潔な水で十分に手を洗うことが重要です。
ワクチン摂取
国によっては、コレラやA型肝炎などの特定の病原体に対するワクチンが利用可能です。訪問地によっては予防接種が推奨されることがあります。
脱水の防止
下痢による脱水は、体にとって危険です。よく水分を補給し、必要であれば経口補水液(ORS)を使用してください。
抗生物質の使用
重症の場合や症状が続く場合には、医療専門家が抗生物質の使用を検討します。抗生物質は特定の細菌に有効であるため、症状や訪問地に基づいた適切な抗生物質が選択されます。
下痢止め
一時的に下痢を制御するために、ロペラミドなどの下痢止めが使用されます。しかし、これらは症状を抑えるだけで原因を治療するものではありません。
旅行者下痢症の症状とは?
旅行者下痢症の主な症状は、下痢や吐き気、嘔吐などがあります。
旅行者下痢症の症状は、感染後、数時間から数日後に現れ、通常は数日で治まります。しかし、一部の人は長期間続くこともあります。どの程度の症状が現れるかは、感染した病原体の種類や体の反応、既往症などによります。
下痢の症状
下痢は最も一般的な症状で、水様性で急激に始まります。一日に何度も便意を催すことがあります。
腹痛や腹部の不快感
腹痛や腹部の不快感は、特に排便直前に発生することがあります。
吐き気や嘔吐
吐き気や嘔吐は下痢と一緒に、又は下痢の前に発生することがあります。
発熱
旅行者下痢症は、感染症に伴う発熱が発生することがあります。
血便や脱水症状
重度の症状では、血便や脱水症状(口渇、めまい、乾燥した口、尿量の減少等)が見られることがあります。
旅行者下痢症のセルフチェック方法
旅行者下痢症のセルフチェックやチェックリストは、主に症状の確認、病状の進行具合、及び適切な治療方法の選択を判断するためのものです。
症状や状況が該当する場合、医療専門家との連絡や診察を求めることが推奨されます。また、旅行者下痢症は自己診断や自己治療の対象ではないことを覚えておきましょう。特に重篤な症状がある場合や症状が続く場合には、医療の専門家に相談してください。
旅行者下痢症のチェックリスト一覧
1.腹痛や腹部の不快感があるか?
2.下痢をしているか?その頻度はどうか?
3.吐き気や嘔吐があるか?
4.発熱があるか?
5.食欲の変化があるか?
6.下痢やその他の症状が数日以上続いているか?
7.体調の変化が急激であるか、又は症状が重篤化しているか?
8.血便や黒色便があるか?
9.意識が混濁しているか?
10.唇や口の中が乾燥しているか?
11.尿の量が少ない、又は尿が濃い色をしているか?
12.疲労感や弱さを感じるか?
13.頭痛やめまいがあるか?
14.乾いた舌、渇き、皮膚の弾力性の低下などの脱水症状があるか?
旅行者下痢症の原因菌や病原体とは?
旅行者下痢症は、一般的には飲食物を通じて感染する腸内の病原体によって引き起こされます。病原体は主に細菌、ウイルス、寄生虫の3つの種類に分けられます。
細菌による原因
旅行者下痢症の大部分は、細菌による感染が原因です。最も一般的なのは、腸管毒素原性大腸菌です。腸管毒素原性大腸菌は食料品や水を通じて飲食物が汚染され、摂取することで感染します。その他の細菌としては、サルモネラ、カンピロバクターなどがあります。
ウイルスによる原因
ウイルスによる感染も、旅行者下痢症の一部を占めています。これらには、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなどが含まれます。
寄生虫による原因
寄生虫は、水源が汚染された場合に感染します。一般的なのはランブル鞭毛虫、赤痢アメーバ、クリプトスポリジウムなどの寄生虫です。
旅行者下痢症の潜伏期間
旅行者下痢症の潜伏期間は、感染した病原体の種類によりますが、一般的には感染から数時間から数日後に症状が現れます。大部分の場合、旅行者は旅行先に到着してから1週間以内に症状を経験します。
感染後12時間~72時間
大腸菌やサルモネラ菌の感染では、感染後12時間から72時間で症状が出現することが一般的です。一方、寄生虫による感染では、潜伏期間は1週間~2週間と長くなります。
旅行者下痢症の原因となる食品とは?
旅行者下痢症は、飲食物に含まれる病原体によって引き起こされます。
旅行者下痢症のリスクを減らすためには、Cook it, boil it, peel it, or forget it(煮る、茹でる、皮をむく、それ以外は口にしない)というアドバイスが一般的です。すなわち、食品は十分に調理され、水は沸騰させ、果物や野菜は皮をむいて食べることが推奨されます。また、手洗いも病原体の感染を防ぐ重要な要素です。
加熱調理が不十分な食品
加熱調理が不十分な肉類や魚介類は、細菌や寄生虫の感染源になります。寿司や刺身などの生肉や生魚は、特にリスクが高いです。
生の果物や野菜
生の果物や野菜も、土壌や水源から汚染される可能性があります。特に自分で洗ったり、皮をむいたりしない場合は注意が必要です。
街角の屋台での飲食
屋台での飲食は衛生状態が不十分な場合が多く、食品が十分に加熱されずに長時間放置されている可能性もあります。
水(水道水)と氷
衛生状態が不十分な地域では、水源が汚染されている可能性があります。また、氷も汚染水から作られることがあるため注意が必要です。ボトル入りの水や滅菌された水を選ぶことが推奨されます。
乳製品
冷蔵設備が不十分な地域では、乳製品は細菌による汚染が生じやすい食材です。
旅行者下痢症を予防するには?
旅行者下痢症は、食べ物や飲み物による予防と、手洗いの予防の大きく2つに分けられます。
地域によっては、旅行前に特定の病原体(たとえばコレラやチフスなど)に対するワクチン接種が推奨されることもあります。旅行前に医療専門家に相談し、適切な予防策を講じることが重要です。
食べ物や飲み物による予防
原則として、食べるものや飲むものは調理されていること、又は自分で皮をむけることを確認しましょう。これは、Cook it, boil it, peel it, or forget it(煮る、茹でる、皮をむく、それ以外は口にしない)という原則を意味します。
飲み物は市販のボトル入りのもの(特にキャップ付き)を選び、未開封のものを購入します。また、飲み物に氷を入れることは避けてください。氷も水質によりますので、安全な水から作られているとは限りません。
飲食物を販売する屋台や店の衛生状態を確認し、信頼性が確立されていない場所での飲食は避けることが重要です。
手洗いによる衛生
定期的に手を洗うことは、非常に重要です。特にトイレを使用した後や食事前には必ず手を洗いましょう。手洗いが難しい場合は、手指用のアルコールジェルやウエットティッシュなどを使用すると良いでしょう
旅行者下痢症の対処法や治療方法
旅行者下痢症に対する基本的な対処法は、水分補給と食事による対策です。また、症状によっては下痢止め薬などが使われることもあります。ただ、対処法は一般的なものであり、個々の症状や病状により、適切な対応は異なることがあります。
水分補給
旅行者下痢症は、下痢により体から水分や電解質が失われますので、これらを適切に補給することが重要です。経口補水液(ORS)を用いることが一般的です。自家製の補水液(砂糖と塩を含む水)を作ることも可能ですが、適切な比率が重要であるため専門家の指導を受けることが望ましいです。
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食事による対策
食事に関しては、食欲が戻るまで無理に食べる必要はありませんが、消化しやすい食事を少しずつ取ることが推奨されます。バナナ、リンゴソース、トースト(BRATダイエット)などがよく推奨されます。
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薬物治療
旅行者下痢症には下痢止めの薬が一時的な対策として用いられることがありますが、これは症状の緩和のみを目的としており、感染そのものの治療にはなりません。重度の下痢、又は細菌性の感染が疑われる場合には、抗生物質が処方されることもあります。
抗生物質は特定のバクテリアによる感染が原因であると明確に診断された場合や、症状が重い場合に使用されます。ただし、抗生物質は医師の指示に従って適切に使用する必要があります。
医療専門家への連絡
旅行者下痢症が重篤であったり、数日以上改善しない場合、又は血便や高熱、重度の脱水症状がある場合には、すぐに医療の専門家に連絡してください。