ドア・イン・ザ・フェイスとは、大きな要求を初めに出し、拒否された後に小さな要求を出すという行動心理学のテクニックの1つで、譲歩的依頼法とも呼ばれる手法です。大きな提案に比べれば、小さな提案が容易に受け入れられるという人間の心理的傾向を利用しています。
ドアインザフェイスのテクニックは、最初に出される大きな要求に対する拒否感を利用し、次に出される小さな要求に対する受け入れやすさを高めるためのものです。人は最初に大きな要求を拒否すると、申し訳ないという罪悪感を感じ、その後の小さな要求に対して承諾するという流れです。
ドアインザフェイスの由来とは?
ドアインザフェイス(door in the face)は心理学の説得戦略の一つで、直訳すると「顔にドアを閉める」となりますが、人の顔に向かってドアを閉める、門前払いするという訪問販売のセールスマンが由来です。
ドアインザフェイスの説得戦略は、最初に大きな要求を出して拒否されることにより、相手に罪悪感を与え、次に出す小さな要求に対する承諾を得やすくするという戦略です。
ドアインザフェイスの意味
ドアインザフェイスは、最初に大きな要求を行い、相手に拒否された後に比較的小さな要求を出すという手法です。
ドア・イン・ザ・フェイスのテクニックは、販売、営業、寄付の募集、交渉など、様々な場面で利用されます。ただし、このテクニックが必ずしも効果的であるとは限らず、個々の状況や文化的な要素によって効果が変わることがあります。
ドアインザフェイスの心理とは?
ドアインザフェイスの心理テクニックは、比較対照の原則と社会的責任の原則の2つの主要な心理的側面に基づいています。
比較対照の原則
ドアインザフェイスは、同じ事象や物事を別々の背景や状況で比較すると、その感じ方が変わるという人間の心理的傾向に基づいています。最初に大きな要求を出すことで、その後の小さな要求が相対的に小さく感じられ、より受け入れやすくなるというものです。
社会的責任の原則
人間は社会的な責任や義務を感じる傾向があり、ドアインザフェイスは自分自身を公正な人間と見なす時には義務感が強まるという心理的傾向に基づいています。大きな要求を拒否した後、人は申し訳なさを感じて、次の小さな要求に対する義務感を感じやすくなるというものです。
譲歩的依頼法とは?
譲歩的依頼法は、心理学における説得や影響力の戦略の一つで、ドアインザフェイスとも呼ばれます。
譲歩的依頼法の戦略では、まず大きな要求を行います。大きな要求は一般的に拒否されやすいので、拒否の後に比較的小さな要求を行います。小さな要求は、最初の大きな要求と比較すると、相対的に受け入れやすく見えるため、拒否される可能性が低くなります。
たとえば、あるボランティア団体が「1年間ボランティアとして働いてもらえませんか?」と尋ね、拒否された後に、「それでは、週末に数時間ボランティアとして働いてくれませんか?」と尋ねるというのが一例です。
返報性の原理とは?
返報性の原理とは、人間の社会的な行動の1つで、誰かが私たちに何かをしてくれたとき、私たちはその恩恵を受けた人に何かを返そうと感じる傾向があるというものです。
返報性の原理は、商取引や対人関係、営業戦略など、様々な状況において使われます。たとえば、レストランでのチップの文化、無料サンプルの提供、友人からの贈り物への返礼などが、返報性の原理の具体例です。
譲歩の返報性とは?
譲歩の返報性とは、社会心理学の原理の一つで、周りの人から何かを譲ってもらった時に、自分自身も譲歩しやすくなる傾向があるというものです。
たとえば、相手から笑顔で挨拶されたら、自分も笑顔で挨拶を返すことも、譲歩の返報性となります。たとえば、電車やバスなどで席を譲ってもらったら、今度は自分が他の人に席を譲ろうと考えます。
ドアインザフェイスのメリットや効果とは?
ドアインザフェイスは、心理学とコミュニケーションの観点から見ると、いくつかのメリットや効果があります。
説得力を高める
ドアインザフェイスは、小さな要求が最初の大きな要求と比べて容易に受け入れられやすくなる可能性があるため、全体的な説得力を高めることができます。
自己認識の調整
大きな要求を拒否した後の小さな要求に対する受け入れやすさは、自己認識の調整にも役立ちます。
相互関係の強化
小さな要求を受け入れることで、相手が自分に協力的であると感じ、相互の関係を強化することができます。
ドアインザフェイスの具体例
ドアインザフェイスの心理テクニックを使用して、最初の大きな要求が拒否された後に、相対的に小さい要求が受け入れられる可能性を高めるものです。下記にいくつかの事例を記載します。
寄付の募集
街頭でボランティアスタッフが「1万円の寄付をお願いします」と尋ね、その要求が拒否された後で「それなら100円でもいいので寄付していただけませんか?」と再度尋ねます。最初の大きな要求に比べて、後の小さな要求は容易に受け入れられやすくなります。
営業・販売戦略
営業マンが高級車や高級家具などの商品を最初に提案し、その提案が拒否された場合、次に比較的安価な普通車や一般的な価格の家具などの商品を提案します。顧客は、初めの高価な提案に比べて後の提案をより手頃と感じ、購入に至る可能性が高まります。
親の子供への指導法
親が子供に対して「今週末、家の大掃除をするから手伝ってね」と尋ね、拒否された後に「それなら、少なくとも自分の部屋は掃除してね」と再度尋ねます。最初の大きな要求に比べて、2つ目の要求は比較的小さく、受け入れやすくなります。
ドアインザフェイスの営業テクニックとは?
ドアインザフェイスは、営業の現場でも頻繁に使用されます。下記にいくつかの営業の事例を記載します。ただ、ドアインザフェイスの心理テクニックは、正しく使われなければ信頼を損ねる可能性があるため、注意が必要です。
高額商品から低価格の商品を提案する
営業マンが顧客に最高価格の商品を提案します。顧客がこれを拒否した場合、営業マンは次に比較的低価格の商品を提案します。初めの高価な提案に比べて、後の提案がより手頃に感じられ、顧客が購入する可能性が高まります。
時間を短くする
営業マンが顧客に「1時間のデモンストレーションに参加していただけますか?」と要求し、顧客が拒否した場合、「それでは、15分だけでもプレゼンテーションを聞いていただけますか?」と再要求します。時間的な負担が軽減されることで、顧客は後の要求を受け入れやすくなります。
高額プランから格安プランへの提案
営業マンがソフトウェアの最高ランクのサービスプランを最初に提案し、顧客がそれを拒否した場合、次に基本的なサービスプランを提案します。最初の要求が大きすぎると感じた顧客は、後の要求がより合理的で受け入れやすいと感じる場合があります。
ドアインザフェイスの恋愛テクニックとは?
ドアインザフェイスの心理テクニックは、恋愛でも使うことができます。たとえば、デートに誘う時や告白をする時、旅行に出掛ける時など、恋愛の様々な場面で応用できます。
デートに誘う場合
気になっている相手に対して、「今度、飲みに行きませんか?」と誘って断られた時に、「それじゃランチでもどうですか?」と誘います。
お酒を飲みに行くとなると夜の時間帯になりますし、お酒が入るとちょっと怖い思いをするかもしれないという心理から、次の提案では昼間のランチに誘うという流れです。飲みに行くことを断っているため、昼間のランチならOKとなる可能性が高くなります。
旅行に誘う場合
たとえば、「今度、二人で旅行に行こうよ」と誘い、断られたとします。次の提案では「それじゃ、うちに遊びに来ない?」と家デートに誘います。
旅行に出掛けるというのは、かなりハードルが高いですが、家に遊びに行くのは最初の旅行に比べると、格段にハードルが下がりますので、成功する可能性が高くなります。
ドアインザフェイスの注意点
ドアインザフェイス(譲歩的依頼法)の注意点は、最初にあまりにも非現実的な要求をすると、相手の信頼を損ねてしまう場合があることです。
要求があまりにも大きすぎる
最初の要求があまりに大きすぎると、相手は不快感を感じたり、理不尽さを感じるかもしれません。その結果、その後の小さな要求にも拒否反応を示す可能性があります。
信用や信頼を失う
最初の要求が非現実的すぎると、相手はあなたを信用できなくなる可能性があります。そのため、最初の要求は現実的であるべきで、そうでなければ相手はあなたの誠実さを疑うかもしれません。
文化的な違いによる効果
ドアインザフェイスの心理テクニックは、文化的に依存する側面があり、一部の文化ではドアインザフェイスが効果的である一方で、他の文化ではドアインザフェイスが受け入れられないという場合があります。そのため、相手の文化的背景を理解し、その文化に適合したコミュニケーション方法を選ぶことが重要です。
長期的な関係が築けない
ドアインザフェイスは1度だけの交渉では効果的かもしれませんが、長期的な関係を築くには信頼性と誠実さが重要で、ドアインザフェイスの手法は、あまり向いていないと言えます。